2031灘中伴走ブログ(一部司法試験ブログ)

医者が仕事しながら三度目で司法試験予備試験合格しました。司法試験も合格しました。今後は灘中受験にフォーカスします。

令和6年 司法試験刑法 再現答案

設問1

第1 甲の罪責

1 Aの頭部を拳で殴り、Aの腹部を繰り返し蹴った行為(「行為①」とする。)により、肋骨骨折等の生理的機能障害を負わせているから「人の身体を傷害した」といえ、傷害罪(204条)が成立する。

2 本件財布をAの手元に置かせた行為に強要罪(223条1項)が成立するか。

⑴ 上記第1の1の行為という人に対する不法な有形力の行使という「暴行」を行い、本件財布をAの手元に置かせるという「義務ない行為」をさせている。

⑵ 故意に欠けるところもない

⑶ よって、本件財布をAの手元に置かせた行為に強要罪(223条1項)が成立する

3 本件財布を自分のポケットに入れた行為に強盗罪(236条1項)が成立しないか。

⑴ 強盗罪における暴行または脅迫は、財物強手に向けた反抗を抑圧するに足りる不法な有形力の行使または害悪の告知をいう。また、自己が創出した犯行抑圧状態を利用する場合には、犯行抑圧状態を維持するに足る程度で足ると解する。

⑵ 本件では、行為①の時点では財物奪取意志がないため、暴行には当たらない。また、甲は、行為①により創出した犯行抑圧状態を認識しながら本件財布をポケットに入れているが、甲は「この財布はもらっておくよ」という言葉しか発しておらず、害悪の告知とは言えずなんら犯行抑圧状態を継続するに足る暴行または脅迫もしていない。

⑶ したがって、強盗罪は成立しない。

4 では、本件財布を自分のポケットに入れた行為に窃盗罪(235条)が成立しないか

⑴ 甲は、本件財布という「他人の財物」を甲の意思に反し自らの占有化に移し「窃取」している。

⑵ 甲の故意(38条1項)に欠けるところはない。

⑶ 窃盗罪には、不可罰である使用窃盗及び毀棄罪と区別するために、不法領得の意思が必要である。不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い利用処分する意思をいう。

⑷ア 甲は、Aを排除し本件財布を自己の所有物にする意思がある。

イ 6万円を抜くという行為が本件財布の経済的用法といえるか問題となりうるが、財布には金銭を保管すること及び取り出し使用ることが経済用法として含まれるため、6万円を抜くことは経済的用法に従い利用処分する意思にあたる

⑸ よって、甲に領得の意思は認められる。

⑹以上より、甲の行為に窃盗罪は成立する。

5罪数

 ①傷害罪(204条)、②強要罪(223条1項)、③窃盗罪(235)が成立し、①と②はけん連犯(原文ママ)となり、③とは併合罪となる。

第2 乙の罪責

1 乙のバタフライナイフの刃先を眼前に示しながら「死にたくなければ暗証番号を言え」といった行為に強盗利得罪が成立するか(236条2項)。

⑴ 「脅迫」とは財物上の利益に向けた反抗を抑圧するに足りる害悪の告知をいう。

ア 乙は、殺傷能力が高いバタフライナイフの刃先をAの眼前という枢要部に示しながら「死にたくなければ、このカードの暗証番号を言え。」という後述の財産上の利益に向けた害悪の告知をしている。かかる言葉により、人は通常生命の危険を感じ犯行が抑圧されるから「脅迫」にあたる。

イ そして、Aは反抗抑圧状態となった結果、暗証番号を教えている。

ウ もっとも、乙がAからキャッシュカードの暗証番号を聞き出す行為(行為4)が財産犯における「財産上不法の利益」を得ようとする行為に当たるか。

エ 1項強盗罪との均衡から、財物の移転と同視できる場合、すなわち、確実かつ現実的に利益が移転した場合に「財産上不法の利益」を得たということができると解する。

オ キャッシュカードを既に持参しているものがその暗証番号を入手することは預金口座から現金の払戻しを受ける地位という具体的な利益を取得することになるといえる。また、暗証番号とカードを用いれば即座に現金を手に入れることができるのであるから、確実かつ現実的に利益が移転したと言える

⑵ もっとも、Aが乙に対して本件キャッシュカードの暗証番号と異なる4桁の数字を伝えたことで乙は上記具体的な利益を取得することができなかったのであるが、これにより不能犯として強盗罪が成立しないのではないか問題となる。

ア 不能であるか否かの判断は、一般人の視点を基準として、特に行為者が認識した事情を考慮に入れた上で、一般人の観点において法益侵害の危険が生じたかで判断する。

イ 本件では、一般人の観点から暗証番号が正しく、財産上不法な利益を乙が得る現実的な危険があったと言える。

⑶ 乙は実際には正しい暗証番号を得なかったが、強盗未遂罪(236条2項、243条)が成立する。

から「財産上不法の利益を得」たということはできない。

(5)乙には上記行為についての認識及び認容があるから故意(38条1項)も認められる(2項罪に不法領得の意思は不要)。

(6)よって、行為4について強盗罪の未遂(243条、236条2項)が成立する。

設問2 ⑴

第1 丙に暴行罪(208)が成立しないか

1 丙はCの顔面を拳で殴り(1回目殴打)、さらに同様の行為(2回目殴打)び、Cに対して不法な有形力の行使である「暴行」を加えており、故意に欠けるところもない。したがって、丙の両行為は暴行罪(208条)の構成要件に該当する行為である。

2 もっとも、正当防衛(36条1項)が成立しないか。

⑴ 1回目殴打、2回目殴打の際、ともにCが丙に殴りかかってきており、丙の身体の安全に対して違法な法益侵害が間近に迫っているから「急迫不正の侵害」が認められる。

⑵ 丙は1回目殴打行為及び2回目行為いずれにおいても身を守る意思を有しており、積極的加害意思も有さないため、防衛の意思を有すると言え、「防衛するため」に行為に及んだといえる。

⑶ 「やむを得ずにした行為」とは防衛手段として必要最小限度のものであり手段の祖応答性相当性を有するものであることを言う。乙も丙もそれぞれ26歳及び30歳で男性であり、体格等にも大きな違いはないと思われるところ、いずれの殴打行為においてもCが拳で殴りかかってきたことに対して同じ行為で対抗しており、武器対等の原則に反せず手段の相当性が認められる。

⑷ 以上より、正当防衛が成立する(36条1項)ので丙の行為の違法性は阻却され、暴行罪は成立しない。

設問2 ⑵

第1 丙による2回目殴打について丁に暴行罪の幇助犯(62条1項、208条)が成立するか。

1⑴ 幇助とは、正犯の行為を物理的または精神的に容易にすれば足りると解する。

⑵ 丙は丁の声掛けに対して発奮して2回目殴打行為に及んでおり丁の声掛けは精神的に丙による法益侵害結果を促進したといえる。

⑶ したがって、丁に暴行罪の幇助犯が成立し得る。

2 しかし、正犯者の丙において正当防衛が成立しているから、共犯者の丁にも正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。いわゆる狭義の共犯に正犯なき共犯が成立するかが問題となる。

⑴ この点、幇助犯は正犯を助長する性質しか有さない以上、正犯の行為に違法性が認められなければ幇助行為についても違法性は認められない。

⑵ よって、丁には暴行罪の幇助犯は成立しない。

3 なお、これは、丁が丙に暴行罪が成立すると誤信したうえで、幇助の故意を有していた本件においても変わりはない。

第2

1 甲に暴行罪の共同正犯(60条、208条)が成立するか。

2 共謀共同正犯の成立要件は①共謀と②これに基づく実行行為③正犯意思である。甲はCを痛めつける意図で「Cを殴れ」と丙にいい、これを聞いた丙がこれに応じているため、この時点で現場共謀(①)が成立する。甲の殴打行為は共謀に基づく行為といえる(②)

また、甲は「この機にCを痛めつけてやる」という意思を有しており、正犯性もある(③)。

3 また、甲は粗暴な性格のCから殴られるかもしれないと予期している。その上で、むしろその機会を利用してCを暴力にて痛めつけようと考えており、武器を携帯するが如く粗暴な性格の丙を同伴することを決めて、これを実行に移している。すなわち、侵害の予期をしたにとどまらず、積極的な加害意思すら持ってC方に出向いている。そのため、防衛の意思(36条)が認められず、甲には正当防衛は成立しない。

4 よって、客観的には甲に暴行罪の共同正犯(60条)が成立する。

5⑴ もっとも、丙に正当防衛(36条1項)が成立する以上、甲にも正当防衛が成立し違法性が阻却され、暴行罪の共同正犯が成立しないのではないか問題となる。

⑵ この点、共同正犯は「正犯」であるから、責任に関する違法性は連帯せず、正当防衛の成立については個別に判断される。

⑶ よって、上述の通り、甲には正当防衛は成立しない以上暴行罪の共同正犯が成立する。以上